
VOICE 182
Awatief Daniels
and Ben Henzler, founders
of Lavender&Black
Photography - HIRO Interview - MINA

「私たちは、自然に育った健やかな植物を、一つひとつ意味のあるプロダクトへと形にしています。育てる植物も、製作工程も、配合する素材も。そのすべてを、「なぜそれを選ぶのか」という理由を大切にしながら決めています」
ソルトスプリング島の北端。心地よいSunset Driveを北へ進み、Pringle Farm Roadを右へ曲がると、道はゆるやかに丘を登っていきます。
「本当にこんな場所にラベンダーファームがあるのだろうか。」そんなことを思い始めた頃、左手の樹々の隙間から、一面に広がる紫色の景色が姿を現します。
Lavender & Blackを訪れた人なら、きっと誰もがその美しさに思わず息をのむでしょう。海へとなだらかに続く丘の斜面に、樹齢100年を超えるアービュタスやモミ、ビッグリーフメープルに抱かれるように咲くラベンダー。その景色は、まるで自然が描いた一枚の絵葉書のようです。しかし、この場所の魅力は、その美しさだけではありません。
2016年、オーナー夫妻のAwatiefさんとBenさんは、この土地に約4,000本の小さなラベンダーの苗を植えました。それから約10年。二人はほぼ自分たちの手だけで畑を育て、植物を蒸留し、ウェルネスをテーマにした製品を一つひとつ丁寧につくり続けています。
このファームは、一般的なラベンダー農園とは少し違います。樹齢150年を超える木々はそのまま残し、ラベンダーは森を縫うように植えられています。畝の間には草花や野草が育ち、ミツバチや蝶、ヘビなど、小さな生きものたちの住処にもなっています。効率や収穫量を優先するのではなく、自然への手を最小限にとどめ、その土地が本来持つ豊かさを守りながら育てる―それが二人の農業です。
春にはスパニッシュラベンダー、初夏にはイングリッシュラベンダー、夏にはフレンチラベンダーが咲き、6月から7月にかけては鮮やかな黄色のイモーテルも丘を彩ります。それぞれの品種は香りを大切に選び抜かれ、森の木々や海風、この土地ならではの環境が、その香りに奥行きと個性を与えています。ラベンダーの香りに、どこか複雑でやさしい深みを感じるのは、この土地そのものが、その香りを育んでいるからなのかもしれません。
少し時間を忘れて景色を眺めたり、ファームショップで植物から生まれた製品を手に取ったり。ラベンダーが心を穏やかにしてくれるように、この場所にも、訪れる人の心をゆっくりと解きほぐしてくれるような空気があります。
そんなLavender & Blackを育んできたAwatiefさんとBenさんに、この土地との出会いや、ものづくりへの想いを伺いました。
VOICE(V):Lavender & Blackは、どのようにして始まったのですか?
Awatief(A):私は南アフリカ出身で、もともとは医療の現場で働いていました。自閉症のお子さんや、神経疾患のある方の支援をしていたんです。その頃から植物は自然と仕事の一部になっていて、中でもラベンダーはとても大切な存在でした。心を落ち着かせてくれる植物なので、注意欠如のあるお子さんや自閉症のお子さんたちが安心して過ごせる環境づくりの一つとして取り入れていました。
そんな中、ベンが会社勤めを辞めたいと考え始めた頃、友人と一緒にイギリスのラベンダーファームを訪れる機会がありました。その時に、何かがふっと変わったんです。
農園に一歩足を踏み入れた瞬間、「これが私たちの次の人生かもしれない」と感じました。私がこれまで培ってきた医療の経験や植物との関わり、そしてベンがずっと大切にしてきた植物への情熱や盆栽、香りづくりへの興味。そのすべてを一つにできる未来が見えたんです。
旅行から帰ってその話をベンにしたんですが、正直「いいね」と言ってくれるとは思っていませんでした。でも、彼はすぐに賛成してくれました。
当時はバンクーバーのダウンタウンで暮らしていましたが、二人とも「何か新しいことを始めたい」「本当に意味のあることをしたい」「誰かへの贈り物になるような仕事がしたい」という思いを抱いていました。
そこから約2年かけて、ハーブや薬草について学び、蒸留の技術を身につけ、農園を始めるために必要なことを一つずつ学んでいきました。本当に情熱がないと続けられない仕事ですが、それだけやりがいのある道でもあります。
V:なぜSalt Spring Islandを選んだのですか?
Ben(B):自分たちの農園を始めようと決めてからは、カナダ国内だけでなく海外も含めて、いろいろな土地を探しました。バンクーバーに住んでいたこともあり、以前訪れたことのあるガルフアイランドも候補の一つでした。
そして、この土地に出会ったんです。不思議なくらい心に残る場所で、その後どんな土地を見ても、この場所以上に惹かれることはありませんでした。
ここは一般的な農地とは違い、草木が生い茂り、150年ほど前から育つ大きな木々が残る、森のような土地でした。その景色や空気に、私たちは強く惹かれました。
だからこそ、健康な木はできるだけ残し、この土地の自然を生かしながら少しずつ農園をつくってきました。土地を変えるのではなく、この場所の一部として農園を育てていく。それが、この土地に初めて立ったときから変わらない私たちの想いです。
V:農業経験は以前からあったのですか?
A:いいえ、二人とも農業の経験はありませんでした。でも、実はそれが良かったのかもしれません。もし農業の大変さをすべて知っていたら、始める勇気が出なかったかもしれませんね(笑)。農園は植物が育つ季節には常に手をかける必要があるので、夏休みというものはなくなります。
私たちの農園づくりで大切にしたのは、生物多様性を守り、植物や土壌が本来持つ力を引き出すことでした。
例えば、多くのラベンダー農園では雑草対策として畝の間も含めて黒い防草シートを使いますが、私たちは植物の根元だけに使用し、場所によってはあえて自然のまま植物を育てる方法を選びました。その分、草取りや管理に多くの時間がかかります。
でも、その選択によって、より多くの昆虫が訪れ、草や他の植物が育ち、多様な生き物が暮らせる環境が生まれました。
私たちの目標は、ここに来た時よりも、少しでも健やかな土地にして次へつなげていくことです。
2017年に農園を一般公開した時、植物たちはまだ小さく、実は隣の雑草の方がラベンダーより大きいくらいでした(笑)。それでも、毎年訪れてくださる方々が、土地が少しずつ変化していく過程を一緒に見守ってくれています。
V:農業において大切にしている哲学は何ですか?
B:私たちは、健やかな植物から生まれ、その土地らしさを感じられるようなプロダクトを届けたいと思っています。そのために大切にしているのが、自然の仕組みに寄り添った農法です。
植物をすべて管理しようとするのではなく、必要のない場所では自然に任せています。ラベンダーやヘリクリサム、ローズマリーの間には、野の花や草、低木が自然に育ち、そこがトンボやミツバチ、蝶、さらにはガーターヘビのような生き物たちの住処になっています。
このような育て方では、効率や収穫量は少し下がります。でも、その分、植物の質や土地全体の健やかさが大きく向上すると考えています。
大きなラベンダー農園で行われている方法をそのまま取り入れるのではなく、私たちはこの土地だからこそ生まれる特別なものを届けたいと思っています。
健康な植物からは、その生命力や土地の豊かさが自然とプロダクトにも宿ります。それが、私たちがこの10年間ずっと大切にしてきたことです。
V:ラベンダーのどんなところが一番好きですか?
A:ラベンダーは、本当に自然と好きになれる植物だと思います。多くの人が親しみやすく、心でつながることのできる植物ですよね。
ラベンダーは、強く主張するのではなく、そっと寄り添ってくれる存在です。穏やかで落ち着いた雰囲気があって、実際にそのそばで時間を過ごすと、その心地よさを感じることができます。
V:最初に作ったプロダクトは何でしたか?
A:最初に作ったのは、イングリッシュラベンダーのエッセンシャルオイルでした。それが、今ある多くのプロダクトの原点になっています。
質の高いエッセンシャルオイルがあれば、そこからさまざまなものを生み出すことができます。私自身が医療の分野で働いていた経験もあり、私たちのプロダクトは最初から「ウェルネス」を大切にしてきました。
その後、アロマセラピーのロールオンを作りました。多くの人が睡眠の悩みを抱えていることを知り、ラベンダーが持つ自然な落ち着きやリラックスをサポートする力を考えると、とても自然な流れでした。
私たちの商品づくりは、流行を追うというよりも、「本当に必要とされているものは何か」「自分たちが実際に使いたいものは何か」というところから生まれています。作ったものはすべて自分たちでも使っていますし、時には愛犬のためのプロダクトになることもあります。例えば、Hana’s Herbal Paw Balmは、私たちのラベンダーとヘリクリサムのエッセンシャルオイルを使っています。
これからも、長く愛用していただける、質が高く、多目的に使えるプロダクトを作り続けたいと思っています。それが、私たちらしさとして覚えていただけるものになれば嬉しいです。
B:私たちのプロダクトは、この農園で育つ植物から生まれています。初夏になる頃には、前の年に収穫した原料が少なくなり、新しい植物が育つのを待つ時期になります。その季節のリズムも、私たちの商品づくりの一部です。
V:香りづくりのインスピレーションはどこから得ていますか?
B:まずは、この農園で育つ植物が出発点になります。でも、それだけではありません。森や海辺から採取する野草やミネラルなど、自然の中にはたくさんの香りの素材があります。
どの素材を選ぶかは、とても大切です。例えば、スキンケアや香水に使っているイングリッシュラベンダーの一つに、「Maillette(マイエット)」という品種があります。見た目が特別華やかな品種ではなく、育てるのも少し難しいのですが、その香りには奥行きと複雑さがあります。
そして、香りを決めるのは植物そのものだけではありません。この土地の環境も、大きな影響を与えています。以前、私たちのMailletteのエッセンシャルオイルを、フランスやアメリカ、カナダの他の地域のものと比べたことがあります。でも、どれも少し違っていました。私たちのものには、より深みがあり、より複雑で、独特の表情があったんです。
成熟した木々の間で育つ植物は、広い畑で単一栽培された植物とは違う個性を持ちます。その違いが、最終的な香りにも表れるのだと思います。
もう一つ大切なのが、プロダクトへの仕立て方です。私たちは、できるだけ一つの植物から異なる形で魅力を引き出したいと考えています。
例えば、Serenity Roll-Onでは、乾燥したラベンダーの花をキャリアオイルにじっくり浸出させ、そこにラベンダーのエッセンシャルオイルを重ねています。それぞれの方法によって植物から引き出される表情が違い、それを組み合わせることで、より深みのあるラベンダーの魅力を表現できます。時間も手間もかかる方法ですが、だからこそ、奥行きのあるプロダクトになると考えています。
V:農園以外では、どのようなことがプロダクトづくりに影響していますか?
A:時々、南アフリカにいる家族を訪ねると、その土地ならではの植物やオイルに出会うことがあります。そうした素材を私たちの商品に取り入れることが大好きなんです。それは、プロダクトにもう一つの個性を加えてくれるだけでなく、私自身のルーツやアイデンティティの一部を、ものづくりの中に込めることにもつながっています。
例えば、ローズゼラニウムは南アフリカ原産の植物で、私にとって特別な意味を持つ素材の一つです。また、野生のスイカから採れるカラハリメロンシードオイルも、サボテン種子オイルに似た美しい特性を持っていて、いくつかの商品に取り入れています。
私たちは、ただ珍しいから選ぶのではなく、品質が高く、それぞれの処方に本当に調和するものだけを慎重に選んでいます。この土地で育てる植物にこれだけのこだわりを持っているからこそ、そこに加える素材にも同じ基準を求めています。こだわりを妥協しないのは、全ての素材に対して同じです。
V:島でビジネスをする上での難しさはありますか?
A:Salt Spring Islandの人口は約1万人ほどなので、農園に足を運んでくださる方々や、オンラインで購入してくださるお客様の存在がとても大切です。
時には人手を見つけることが難しいこともあります。そのため、私たちはあえて小さな規模の農園を続けています。それによって、自分たちらしく独立した形を保ち、日々のものづくりや植物との関わりに近い距離でいられるからです。
B:でも、私たちはずっと信じてきました。本当に良いものを作れば、価値を感じる人が自然とたどり着く、と。
V:Salt Springのコミュニティをどのように表現しますか?
B:とても活気があり、クリエイティブな人たちが集まる場所です。アーティストやミュージシャン、作家、俳優など、創造することを大切にしている人たちに囲まれていて、そこからたくさんの刺激をもらっています。
A: ここにいると、「自分も新しいことに挑戦していいんだ」と思わせてくれるんです。多くの人がこの島に来て、自分自身を再発見し、新しい情熱を見つけ、何かを生み出しています。
私たちも、そんな人たちの姿に影響を受けながら、自分たちなりの形でこの道を歩んできました。
V:農業を始めて、ライフスタイルはどのように変わりましたか?
A:以前から、小さなビジネスを応援したり、マーケットに行ったり、地元の生産者から買い物をすることは好きでした。でも、実際にここで暮らし、農業や土地を育てることにどれだけ手間と時間がかかるのかを経験してからは、他の作り手の仕事を見る目が大きく変わりました。
今では、お店で少し価格が高いものを見ても、ためらうことはありません。その背景に、作り手の時間や手間、こだわりが込められていることが分かるからです。それは私たちにとって大きな変化でした。
B:都会から来る人の中には、農業の本当の大変さを知らない方もいます。「ここは素敵なリタイア生活を送る場所ですね」と言われることもよくありますが、私はいつも「これはリタイアじゃないですよ」と答えています(笑)。でも、大変だからこそ得られる喜びも本当に大きいんです。
V:コレクションの中で、日々欠かせないアイテムはありますか?
B:私は毎日、Balancing Soap & Shampooを使っています。それからボタニカルパフュームも愛用していて、その日の気分に合わせて香りを選んでいます。
A:Skin Serum、Hydrosol、Natural Deodorantは、私にとって毎日の習慣の一部です。
私たちのプロダクトには、日常的に使うものもあれば、少し特別な気持ちで使うものもあります。例えば、Immortelle Botanical Body Butterは、イモーテルを贅沢に配合した特別なアイテムです。使うたびに「これは自分へのご褒美だな」と感じるんです。人生には、そんなふうに自分を大切にする時間も必要だと思います。
意味や価値を感じられるものなら、少し価格が高くても選びたいと思える。そんなプロダクトを届けたいと思っています。
V:これからの未来について、どのようなビジョンを持っていますか?
A:まず、農園の一部では植え替えの時期を迎えつつあります。ラベンダーは一般的に10~15年ほどで生産力が落ちてくるため、これからのラベンダー畑をどう育てていくか、次のステージについて考え始めています。
また、オンラインでの展開を少しずつ広げたり、私たちらしい形で、無理なくリテール(店舗販売)にも取り組んでいきたいと思っています。
そして、ワークショップもこれから大切に続けていきたいことの一つです。ラベンダーや植物に深い興味を持つ人たちが集まり、つながる場になるからです。これまで私たちが学んできたことを次の世代へ、そしてこれから植物との暮らしやものづくりを始める人たちへ、少しずつ伝えていけたらと思っています。
V:Lavender & Blackという名前に込めた意味は?
B:世界中のラベンダーを使ったビジネスを見ていく中で、農業のスタイルやプロダクト、ブランドの表現が、どこか似通っていて、少し昔ながらの印象を受けるものが多いと感じました。そこで私たちは、白紙の状態から新しい形を考えました。自然に寄り添った農法を取り入れ、ヘリクリサムをはじめ、この土地で育てたり、自然からいただいた個性的な植物を組み合わせ、現代的な感覚で、高品質で効果を感じられるプロダクトを作ろうと考えたんです。
「Lavender & Black」という名前や、スタジオやパッケージデザインにも、その想いを込めています。私たちは、典型的なラベンダー農園ではなく、植物の可能性を新しい形で表現するブランドでありたいと思っています。


Lavender & Black
Lavender & Black is a family run farm, distillery and studio located on beautiful Salt Spring Island. Here we grow a wide range of flowers and aromatic herbs, including helichrysum, lavender, rosemary, sage, and many others. Together with sustainably gathered plants from the surrounding forest and sea, we have a rich palette of unique botanicals as the foundation of our product line.
































