日々の喧騒に紛れ、何気なく口にするコーヒー。しかし、その一杯の向こうには、想像を絶するほどの労力と物語が息づいています。コロンビア・ウイラ県ヒガンテ。Tostana cafeは、この地の家族経営農園「Finca La Florida」で育まれた、特別なコーヒーを通して、その息吹を私たちに伝えます。
コーヒー農家の多くは、厳しい労働環境の中で適正な報酬を得られずにいます。Tostanaは、そうした現状を変えたいという想いから生まれました。シングルオリジンの豆にこだわり、透明性のある取引を通じて生産者を支援しながら、最高の味わいを追求しています。
とはいえ、道のりは決して平坦ではありませんでした。フアンとレベッカはフルタイムの仕事を続けながら、コーヒースタンドの運営をスタート。移動販売という形でイベントを回りながら販売を続ける中、「いつでも飲める場所がほしい」という声が増え、常設スペースの必要性を実感するようになりました。そんな中、2024年6月にチリワックの「Local Harvest Market」への出店が決定。ようやく安定した拠点を持つことができ、新たなスタートを切ることになりました。
Tostana Caféの成長とともに、コーヒーを愛する人々の輪も広がって来ています。季節限定のドリンクや紅茶、フラッペなど、メニューのバリエーションも増え、間もなく「イースター・ミニエッグ・ラテ」も登場する予定。訪れるたびに新しい発見がある空間を目指しています。
次にコーヒーを手にするとき、その一杯がどのような旅を経て届いたのかに思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。農園で大切に育てられ、丁寧に加工され、人の手を渡りながらここに届いたコーヒー。その背景にある物語を感じながら味わうことで、より特別な時間になるはずです。
VOICE(V):コーヒービジネスに関わることになったきっかけを教えてください。
フアン(J):私はコロンビアのコーヒー農家の家系に生まれました。我が家は100年以上にわたってコーヒー業界に携わっています。都会で育ちましたが、子どもの頃に家族の農園を訪れるのはいつも楽しい経験でした。13歳のとき、父がより良い未来を求めてカナダへ移住を決意しました。しかし、本当にコーヒー栽培の大変さを実感したのは、2021年に妻とともにコロンビアで5か月間ほど過ごしたときのことです。コーヒーの木は成長するのに数年かかり、3~4年目に収穫のピークを迎えます。そして5年目には木を切り戻し、再び育てるのです。このサイクルは約20年間続きます。私自身、幼い頃はこうした工程を全く知りませんでしたが、学ぶほどに興味を引かれました。
こうして、私たちは家族が代々受け継いできた仕事に魅了され、その努力の積み重ねがたった一杯のコーヒーにつながっていることを実感しました。実は、それまで家族のコーヒーは一度も海外で販売されたことがなかったのです。そこで、私たちはコロンビアからカナダへコーヒーを持ち帰り、ビジネスを始めることにしました。
V:ビジネスのスタートはどうでしたか?
J:コロンビアから帰国するとすぐに、小さなトレーラーを購入しました。これは、私たちの小さなビジネスの第一歩でした。しかし、すぐにビジネスを運営するには膨大な時間、労力、資金が必要であることを思い知らされました。そして、どれほど新しい事業に専念したいと思っても、家族を支えるために建設業のフルタイムの仕事を辞めることは選択肢にありませんでした。
レベッカ(R):私たちはトレーラーを移動式のコーヒースタンドに改装し、バンクーバーのマーケットやイベントで販売を始めました。しかし、常に移動していたため、お客様にとって私たちを見つけるのが難しいこともありました。「ここのコーヒーが大好きだけど、次はどこで買えるの?」とよく聞かれました。そこで、私たちには常設の販売拠点が必要だと気づいたのです。
V:Local Harvestとのつながりはどのように生まれ、ビジネスにどんな変化をもたらしましたか?
J:まるで奇跡のようでした。実は1年前にLocal Harvestのオーナーであるダンに連絡を取っていたのですが、返事がないままでした。その頃、私たちはビジネスを続けるのが経済的に厳しく、もうやめようかと考えていました。そんなとき、突然ダンからメールが届いたのです。まさに諦めようとしていたタイミングでした。
その後、彼の奥様であるヘレンとお会いし、話は一気に進みました。彼らは私たちを温かく迎え入れ、Tostana Caféを彼らの農場に出店することを快諾してくれました。理想的な立地で、多くの人に知ってもらえるようになり、安定した顧客層を築くことができました。ダンとヘレンは本当に特別な存在で、農業の深い知識を持ち、とても親切に支えてくれる方々です。おかげで、今年5月にはLocal Harvestでの1周年を迎えられることになりました。
R:お客様に「どこに行けばTostanaのコーヒーを買えるのか」が分かりやすくなり、最近は常連の方々も増えてきました。チリワックのコミュニティから温かいサポートも感じていますし、この地域でのつながりがどんどん広がっています。新しい出会いがあり、素敵な関係が築けていることをとても嬉しく思っています。
また、この地域にはたくさんの農場やローカルビジネスがあり、私たちも地元の生産者から直接買い物をする機会が増えました。オーナーさんたちと直接話せるのは、とても貴重なことだと感じています。
V:Tostanaのコーヒーは、他のコーヒーとどう違うのでしょうか?
R:私たちのコーヒーは、ダイレクトトレード(直接取引)のモデルに基づいています。一般的なコーヒーはフェアトレードや第三者の輸出業者・輸入業者を介して取引されることが多く、その場合、農家が自分たちのコーヒー豆の価格を交渉することはできません。しかし、ダイレクトトレードでは、農家自身が価格を決めることができるため、より正当な報酬を得ることができます。私たちの使命は、ダイレクトトレードコーヒーを広めること、そしてフアンの家族が何世代にもわたって続けてきた仕事を多くの人に知ってもらうことです。
J:私たちは完全なダイレクトトレードのコーヒービジネスを行っています。仲介業者を通さず、他の農園の豆と混ざることもないため、私たちの土地で育ったコーヒー本来の味を楽しんでいただけます。
また、私たちのコーヒーは、コーヒーチェリーが完熟したタイミングでのみ手摘みされます。一般的な収穫方法では、熟していない豆も含めて一度に摘み取られますが、私たちは厳選した豆だけを収穫します。収穫後は、さらに丁寧に選別を行い、最上級の豆だけを脱穀機にかけ、発酵タンクへ移します。発酵時間は豆の品種によって異なります。発酵・乾燥を終えた豆は家族が協同組合に持ち込み、脱穀処理を行います。この工程を経て、輸出可能なグリーンビーンズ(生豆)となるのです。
脱穀以外の全ての工程を自社で管理しているため、私たちのコーヒーが他の農園のものと混ざることはありません。これにより、高品質で透明性のある、産地が明確なコーヒーをお届けできます。一方、一般的な協同組合を通したコーヒーは、複数の農園の豆が混ぜられ、協同組合のブランド名で販売されます。価格も農家ではなく、協同組合が決める仕組みです。
私たちは小規模なビジネスのため、一度に60kgずつ空輸で輸入しています。輸送コストや手間はかかりますが、パッケージ後5日以内にカナダへ届くため、最高の鮮度と品質を維持することができます。
V:今後のビジョンを教えてください。
R:現在、コーヒーロースター(焙煎機)の購入を進めています。今はチリワックのロースターと提携して焙煎を行っていますが、次のステップとして、自社での焙煎に移行したいと考えています。私たちはすでに焙煎のコースを修了しており、間もなく店舗での焙煎を開始できる予定です。そしてもちろん、さらに大きな夢も描いています!
V:あなたにとって、コーヒーとは何ですか?
J:もし1年前にこの質問をされたら、「もうコーヒーは懲りだ」と答えていたかもしれません。でも今は、コーヒーが「本当にやりがいのあるもの」になりました。今、この場所にいられることを心から感謝しています。

VOICE 175
Tostana Cafe
Juan and Rebecca Camacho