Photography - HIRO
Text - MINA
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Hollyhock Retreat Center
Peter Wrinch, CEO
Credits
Photography - HIRO
Interview - MINA
“ホリホックは夢のような場所です。
訪れる方、一人一人のビジョンに対し様々な学びの機会を提供し、理想の自分へ導いてくれるはずです”
-Peter Wrinch
ホリホックは、世界屈指のリトリートセンターの一つであり、1982年の創設以来、自己啓発と社会変革を育むプログラムをキュレーション、開催しています。バンクーバーから5時間以上、3回フェリーを乗り継ぎ辿り着くコルテス島にあるこの施設は、コバルトブルーに澄んだ海と手つかずの白い砂浜、鳥のさえずりが響く太古の森に囲まれています。そんなユートピアのようなホリホックの物語は、運命的な少し不思議なきっかけからスタートしました。
レックス・ウェイラー、シボーン・ロビンソン、リー・ロビンソンの3人は、グリーンピースの元スタッフで、かつてコールドマウンテン研究所として知られていたヒューマン・ポテンシャル・センターの廃墟を、ビーチを散歩中に偶然見つけました。ロッジの暖炉の部屋に立ったレックスは、「この場所を頼むよ」と呼びかけが聞こえてきたそうです。この出来事のほんの数日前、バンクーバー・フォーク・ミュージック・フェスティバルの占い師が、「ホリホックがあなたの将来にとって重要な存在になる」とも予言していました。驚くことに、その老朽化した建物の裏庭には、彼らを待っていたかのようにたくさんのホリホックが咲き乱れていました。その後、運命に導かれるように、同じ志の9人の投資家が力を合わせ、土地を手に入れ、ホリホックは誕生しました。
こうしてホリホックの種は蒔かれ、創設者たちはさまざまなワークショップや変革的なプログラムを通じて、個人の成長、社会の調和、環境の持続可能性の相互作用を探求するリトリートセンターとして運営して来ました。しかしコルテス島のような離島で事業を営むことは、彼らの情熱や努力とは裏腹に、多くの困難を伴うものでした。そして15年前、自分たちのビジョンに忠実であり続けるために、営利主義のビジネスモデルから非営利の社会的企業へとシフトすることを決めたのです。
2017年、以前からホリホックに魅了されていたピーター・リンチ氏がCEOとしてホリホックを率いることになりました。就任から6年間、彼はホリホックのビジョンとそれを生み出した情熱を守りながら、刻々と変化する世界情勢の中でホリホックを前進させています。ホリホックが単なる隠れ家的リトリートではなく、今の時代を生きる個人の社会的役割を模索する為の施設として、今日も世界中から人々を迎え入れています。
VOICE(V): ホリホック以前の経歴を教えていただけますか?
ピーター(P): リッチモンドの下層中産階級の環境で育った私は、高校時代にユートピアの概念に惹かれ始め、革命史、特にソビエト革命に魅了されました。私のコミュニティでは、世界をどのように変えることができるかといった話題はほとんど議論されませんでしたし、私自身、当時の世界にあまり興味を持てませんでした。私が仏教を学び始めたのも同じ時期で、後に、マギル大学で仏教とソビエト史を専攻、大学院卒業後は、日本で2年間を過ごしました。
その後バンクーバーに戻り、アート、政治、非営利活動の交わる形で世界に貢献したいと思うようになり、バンクーバーで最も貧しい地域に拠点を置く非営利人権擁護団体、Pivot Legal Societyに入りました。10年以上にわたり運営と資金調達を担当し、最終的には事務局長まで昇進しました。その間、社会変革の触媒として法の力を強調するPivotの変革理論を信じていましたが、Pivotでの勤めが終わりに近づくにつれ、私の考えは大きくシフトし始めました。よりインパクトのある社会変革を起こすには、政治に直接関わる必要があると思い、その後テック業界に転身、政治力構築に力を注ぎました。しかし、政治システムの欠点や複雑さを知るにつれ、人や社会を健全に育む方法に疑問を抱き始めました。”これら疑問を解消する場所はどこにあるのだろう?”その答えに近づける場所としてホリホックの理念が心に響き、6年前、私はホリホックのCEOになる機会を受け入れました。
V: 個人としての最初のホリホック体験は何でしたか?
P:私が初めてホリホックを訪れたのは2007年、まだPivotで積極的に活動していた時期でした。「社会変革リーダー」のプログラムに参加したのが始まりで、翌年には「リーダーシップの極意」というプログラムに参加するために再びホリホックを訪れ、その経験が私の人生を大きく変えました。これをきっかけに、その後7年近く隔年でホリホックを繰り返し訪れるようになりました。
人生の経験を通じて、私が抱く情熱の中心は、いかにして世界に意義ある変革をもたらすことができるか知見を深めることです。 自己成長や法務を学んだPivotやハイテク企業での経験を重ねたことで、私の視点も変化してきましたが、社会変革達成において、法律やテクノロジーは主要な要素ではなく、必要なのは人としての在り方だという結論に至りました。真の変革は、内なる変革、自己探究とその成長の旅から始まり、他者へのつながりといった外へ向いたものへ広がっていくのだと思います。
V:ホリホックのCEOとしての主な役割について教えてください。
P: CEOとしての主な役割は、組織のビジョンと投資を推進することです。その内容は多岐にわたりますが、重要な事は健全なビジネスモデルを確立することです。私たちは様々なお客様のニーズを見極めながら、新しい参加者を惹きつけるようなプログラムを企画することに注力しています。プログラムの構成には微妙なバランスが必要となるため、常にチームと話し合い、協力し合う姿勢でいます。私たちは、現代の様々な課題を解決するべく役割をホリホックが担っていると信じているので、AIのような今の世界を代表する様なトピックも積極的にプログラムに組み込むようにしています。
V:あなたがホリホックにもたらした特筆すべき変化は何ですか?
P: 私がCEOに就任してからの6年間はホリホックの訪問者を増やし、よりオープンで包括的な体験を創造する事に取り組んできました。就任1年目には、裸のサウナでの水着着用を義務付け、すべてのゲストにとってより快適な環境を推進しました。もうひとつは、40年ぶりに食事に肉を取り入れたことです。私自身はベジタリアンですが、多様な食事嗜好に対応できるよう選択肢を増やすことはとても重要だと思います。今年7月からは、ディナー限定のアルコールサービスを導入するなど、賛否両論ありますが、世代交代に向けた変化は必要なことだと思っています。
このような変化もそうですが、より多種多様なプレゼンターを招き、積極的にプログラムを刷新しています。また、より大規模な社会変革をもたらすためホリホック・リーダーシップ・インスティテュートを再導入しました。このイニシアチブでは、気候変動、公平性、デジタル・アクティヴィズム、サイケデリックなどのトピックを、私たち自身でキュレーションしています。私たちは、プレゼンター主導のプログラムと私たち主導のプログラムとのバランスを取りつつ、明るい未来のために様々な人材育成プログラムを企画しています。
V: ホリホックでの先住民族との関わりは?
P: 過去6年間、クラフース・ファーストネーションと良好な関係を築き続けたことを誇りに思っています。個人的に特別な思い出は2018年、100年ぶりにホリホックのビーチに彼らのボートが上陸し、長老やクラフースの族長とそれを出迎えたことです。このビーチは何千年もの間、コースト・セイリッシュ・ネーションにとって重要な夏の集いの場であり、この再会に立ち会うことはとても考え深い経験でした。
その後、ホリホックのプログラムに参加してもらうために、より多くのクラフースの人々を積極的に招待してきました。今年には、初めて先住民主導の、先住民参加者だけの「気候の集い」を主催し、深い癒しの経験となりました。私たちは先住民コミュニティとの関係を改善することに全力を注いでいます。複雑な問題は多くありますが、常に相互利益をもたらす方法を模索しています。
V: ホリホックは地域社会でどのような役割を果たしているのですか?
P: ホリホックは、コールドマウンテン研究所を彷彿とさせるような遠く閉ざされた隠れ家という歴史的ルーツから、時間をかけて進化してきています。歴代のCEOは、ホリホックをより親しみやすく、地域社会に歓迎されるきっかけを作り、この6年間は、地域社会に溶け込む努力を継続してきました。今年のコルテス・デイでは、初めてホリホックの山車を出しパレードに参加するなど、地域行事に積極的に参加していることを誇りに思っています。冬の時期は島民にロッジを開放し、ミュージック・ナイトなどのコミュニティ・イベントを通して、人々が集い、つながるための温かく魅力的な空間を提供しています。
ホリホックは個人の成長と変革の場所であるだけでなく地域経済にも大きく貢献しています。私たちは島最大の雇用主として、年間約200万ドルを地元経済に貢献しています。毎年約2,000人の人々が島を訪れ、文化的景観を豊かにし、活気あるコミュニティを育んでいます。
V: サステイナブルな取り組みについてどのようなものがありますか?
P: ホリホックでは、食材を含め、あらゆる面でサステイナビリティーを優先しています。提供するほとんどの食材は自家菜園で採れたもので、外部からの調達が必要な場合のみ、できるだけ近隣のパートナーから調達するようにしています。またその取り組みは、地球に優しいクリーナーやパーソナルケア製品にまで及んでいます。
私たちが大事にする信念のひとつは、土地とのつながりを取り戻すことです。人類が抱える多くの問題は、自分自身と他者、そして自然界との断絶から生じていると考えています。土地とのつながりを育むことで、個人が環境に与える影響をよりよく理解し、敬意をもって接することができると信じています。ゲストが土地とつながろうという新たな決意を持って帰っていただくことは、私たちにとって大きな喜びでもあります。
V: ホリホックの将来像について教えていただけますか?
P: 私の心を常に占めている質問は、「ホリホックに対し今の世界が何を求めているのか?」ということです。先ほど述べましたが、自分自身と他者、そして自然とのつながりを取り戻すためのサンクチュアリ(聖域)であることがホリホックの役割だと思っています。私たちは長年にわたり、新しいアイデアを持ち寄り、社会に対して有意義な行動を促す為の場所を提供してきました。今日の世界情勢を鑑みれば、ホリホックは商業的リトリートセンターである必要はありません。財務的に継続させることも大事ですが、私たちは世界が直面している課題と向き合い、その解決に繋がる糸口を、愛と意欲をもって見つける必要があります。私たちの使命は、その糸口に至るための適切なバランスときっかけを創造することです。世界を変えるにはまずは自分自身と向き合うところから。個人成長を促すプログラムを生み出すことがホリホック最重要課題だと思います。
V: ホリホックのCEOの仕事を通じて、一番の喜びは何ですか?
P: ホリホックのCEOというのは、とてもやりがいのある仕事ですが、時々楽しく思えない時もあります。そのような時、心の支えとなり喜びをもたらしてくれるものが2つあります。一つ目は一緒に働く素晴らしいチームと、先住民コミュニティと築いてきた有意義な関係です。私たちのチームの情熱と献身には目を見張るものがあり、私はしばしば彼らに仕事の合間に休みを取るように言い聞かせなくてはならないほどです。ゲストであれ、プレゼンターであれ、私がここで接するすべての人に本当に感動させられています。ホリホックの使命を心から大切に思う人々に囲まれ仕事をすることは非常に贅沢なことだと感じています。
二つ目の喜びは、ホリホックのビジョンを信じて、寛大な心を持ち惜しみなく寄付してくださる方々に出会えることです。それが10ドルであろうと、100万ドルであろうと、金額の大小に関わらず、私たちの取り組みに共感してくださる方々に巡り会えることは、非常に謙虚な気持ちにさせてもらいます。
V: ユートピアはもう見つかりましたか?
P: 私のオフィスの壁にあるハンシャン(コールドマウンテン研究所の名前の由来となった人物)の詩の中に、次のような一節があります。「コールドマウンテンの道に終わりはない。終わりがない道を歩んでいる」
年を重ねるにつれ、私に取ってのユートピアは、好奇心を持ち続けた人生の旅人が探求の旅路の中で出会う集う場所と捉えるようになりました。時折、自分のユートピアを見つけたように感じることがありますが、実際にはそうではないと気づきます。人生は継続的な探求の旅路であり、終わりのない道を歩む事だと思います。
V: ホリホックでお気に入りの場所はどこですか?
P: サンクチュアリです。リンゴ園の向こうにひっそりと佇む隠れた名所です。90年代初頭に、主に建築学科の学生たちによって手作りされたもので、電動工具を最小限に抑え、建設作業は静寂の中で行われました。朝の瞑想に最適な空間です。